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拝啓 ツバメのヒナが巣立ちを始める候、知事様におかれましては、ツバメのヒナが孵化してから巣立つまで親鳥が何千回と餌を運ぶ以上に、お忙しくご活躍の事と存じます。

拝啓 太田房江知事さま

大阪府知事
太田房江様

拝啓 ツバメのヒナが巣立ちを始める候、知事様におかれましては、ツバメのヒナが孵化してから巣立つまで親鳥が何千回と餌を運ぶ以上に、お忙しくご活躍の事と存じます。私は近鉄ファンというよりも、野球ファンとして、大阪府民としてというより、日本人として拙筆をとりました。日本人としてなら、大阪府の問題ではないと思われるかもしれませんが、切なさと憤りと憂いの混じった気持ちをどこかにぶつけるすべもなく、こんな押し付けがましいメールをお許しください。

私の身の回りでは、リストラや倒産などをよく耳にし、ただ、やりきれない思いで現実を見守る今、こんな言葉を使いたくないのですが、閉塞感を感じる人がいても不思議ではありませんし、それは私の周りだけではないと思うのです。そんな折に、買い手があるにもかかわらず、交渉すらしない経営者、親会社がいるものでしょうか。売却し従業員(球団にとってみれば選手や裏方)の雇用を確保できる方法を模索するのが経営者というものでないでしょうか。かつてリクルートの創業者は成長しているときでさえ、倒産しても従業員が困らない担保を模索していたと本で読みました。

純粋に経営者の立場でみてもライブドアがオリックスよりも有利な条件を提示すると言っている以上、消費者や株主にとって最良のシステムであるはずの現在の資本主義の価値に反するのではないでしょうか。ライブドアにその気があるなら、大阪に移転するくらいの行動を見せろとの知事のご発言の真意はわかりませんが、少なくともライブドアが上場している以上、財務情報などは見せているはずです。私はそれで交渉のテーブルにつくまでの判断材料として十分だと考えています。ライブドアによる買収がいいのか悪いのかは分りません。ただ密室で総理が誕生したと言われた森内閣が誕生した時の批判と比較されるように、ただ無力感を感じさせるのです。ましてや閉塞感を感じている人々にとって、絶対的権力者を残す暗澹とした未来を憂慮させるのです。

赤字でやっていけないのだから、売却したところで問題先送りと、経済に長けた方が球団経営を分析なさる記事を見かけることもあるのですが、プロ野球というのはそんな単純にビジネスライクな分析はできません。政治と同じです。なぜなら各球団は自然闘争を行なっているのではないからです。市場原理ではビジネスは競合相手がいなくなれば、マーケットの占有率が上がるかもしれませんが、球団と球団との間には、淘汰しあう関係はないのです。競争ではなく競技を行なっているのです。プロ野球は実質的に、12球団のオーナー達によって運営されています。行政で言えば、政府が無く、都道府県自治のみが存在しているような状況です。球団の利益を追求する各オーナー達が寄り合って物事が決まるわけがありません。しかも利益の集中する読売に権力が集中しているのです。赤字の原因は球団だけのせいといえません。財政赤字の都道府県は都道府県政だけでなく、国政の問題もあるわけです。弱いチームはより弱く、赤字の球団はより赤字にするプロ野球規約のまずさは多くの指摘がされています。

読売球団のオーナーの事はご存知だと思いますが、私の知る限りこの10年で、何度もリーグを脱退するとか新リーグを作ると発言しては、読売の有利な制度を確立してきました。何か似ている出来事がありましたね。全国知事会が三位一体改革アンケートに「回答するな」と通知しました。全国知事会という組織がどのようなものかは分りませんので、発言の賛否はともかく、石原東京都知事が「他の大都市とも連携して独自の運動に取り組んでいくことになる」と脱会をちらつかせました。一極集中の東京だから言える発言で、銀行税を導入しようとしたのも、東京だからできたことです。全国有数の大都市を有する大阪も東京都と連携しているのかもしれませんが、地方にしても都市にしても自分の利益を追求しているだけの寄り合いでしかありません。オーナーの寄り合いであるプロ野球機構がプロ野球全体がよくなる方向に導かないのと同様に、全国知事会もまた、日本国民全体がよくなる方向に導くものではないと断言します。当然かもしれません。太田知事も大阪府民を代表し、大阪府民の利益を第一義に考えるのは自然なことです。私も日本国民全体のことは政府の仕事だと割り切っています。

ところがプロ野球全体をよい方向に導くものは見当たりません。先月開催されたサッカーの大会「ユーロ2004」はごらんになられましたでしょうか?この大会はUEFAという組織が主催しております。彼らはよい大会を運営することに専念し、その結果よいユーロ圏の形成も手伝っていると思いました。UEFAがサッカーファンを無視するような裁定をしたり、偏ったり、不正や癒着があれば、ヨーロッパの人たちはそれを許さないでしょう。もしかしたら、ヨーロッパは市民や知識人が名誉革命やフランス革命、啓蒙運動を成し遂げた風土を持っているのかもしれません。太田知事が女人禁制という大相撲に対して、一石を投じる(失礼な言い方かもしれませんが)精神には、拍手を送る一人であります。

大相撲教会は十数年前に、判定にビデオカメラを導入し、野球に比べて歴史があるにもかかわらず、柔軟だと思っています。それは特定の部屋やパトロンの利益などは歴史の前にかすみ、相撲協会が相撲全体がよくなることを考えているからです。ところが野球はビデオカメラを使った判定を導入をしません。それは審判の仕事を守るためかもしれません。あるいは試合を迅速に進めるためかもしれません。しかし猛然と抗議した選手たちも、引退し解説者になれば、「審判は絶対ですから」という発言を平気でするのです。野球中継を見ている野球好きも又、何の疑問も持たずに審判は絶対だということに(熱狂的なファンは別にして)うなずいてしまいます。これは非常に怖いことです。正しいことを正しいと言えない人間を作ることです。これが長いものに巻かれる日本人の特徴と片付けてしまっていいのでしょうか。

先週に話し合いというより一方的な説明が選手会になされたようですが、選手会がストをちらつかせると、近鉄球団は、選手会の活動に参加するとプロテクト枠から外す(合併時に放出しない選手を指定する事をプロテクトというらしい)というような事を発言しました。この発言にはいろんな問題が含まれていますが、私が確信する最大の問題は、優秀な人材の流出です。この発言は、合併に反対の表明をした球団に対して、読売球団のオーナーが、「反対する球団がいるなら、脱退して新リーグを作る。」というのと同じパワーハラスメントです。そのオーナーの発言が功を奏したのか今では反対する球団はいなくなりました。力のある球団が読売以外ないからです。しかし力のある選手個人は好んで、服従を要求させるところに居続けるでしょうか?力のあるものは大リーグに行くでしょう。もし日本を支えるような企業も、そのような態度をとるなら、優秀な技術者を手放す事になるでしょう。さらに悪いことは優秀なものだけが去っていくのです。

企業が人材という言葉より人財と呼ぶようになって久しく、知事の府政のポリシーにも「人づくり」を掲げておられます。近鉄梨田監督との対談で知事は「大阪がこれまで培ってきた「民」の力「人」の力をうまく結びつけて、大阪をもっと元気にしなきゃいけないと考えているんです。また、そういう結びつきは、経済面だけじゃなく、行政とボランティアやNPOなどとの協働で、様々な社会的課題を解決することにもつながりますね。」とおしゃっておられます。そのとおりだと思いますし、バッファローズもまた大阪における社会的な団体となりうるでしょう。ライブドアはバファローズの社会的な影響力のポテンシャルを見抜いているのでしょう。府民もまた、経済面だけ求めるなら独身や核家族は東京に移り住むでしょう。企業が人を作るのもまた、報酬を与えるだけではだめです。それなら、よりインセンティブの高い企業に転職します。必要なのは類義語ですがモチベーションです。どうすればモチベーションが上がるかなどといった、大業な事を語るには及びません。モチベーションを下げるような行為こそ管理者の独裁であったり、絶対的なものへの服従です。それが人を育てられるわけがありません。

それでも成績のよい営業マンや、顧客に喜んでもらうのが好きな接客業の人や、野球が好きなプロ野球選手は、報酬以外の喜びを感じる事も出来るでしょう。しかし必要悪と呼ばれるような社会的な仕事や、その他さまざまなサービスを行う方、それこそ行政の窓口、研究者や、大人数のチームで一つの仕事をなしている方々など個人の成果が分かりにくい多くの職種で、モチベーションを維持しているところはどれほどあるでしょう。そういう企業があるのも事実です。しかし多くの人が、自分の価値を見出せずに、意見をする事もせず、自分の社会への貢献を意識する事も無く、日々の業務をこなしているような気がしています。その象徴が近鉄バッファローズが消滅する事を嘆くファンであり、ブルーウェーブのファンであり、日本シリーズを秋の風物詩として楽しみにしている野球ファンであり、ライブドアであり、プロ野球選手会だと思えるのです。「どうせどうする事も出来ないや」という無力感。すでに世論は、プロ野球そのものより、合併騒動を楽しんでいるようにも感じます。選手会とオーナー達がけんかし、オーナー達はおなじみの無茶苦茶な発言をしてやがる。おっ選手会もがんばってるな。どうせ俺たちが冷や飯を食わされてるように選手会もやられるんだろうな。みたいな他人事的な皮肉っぽい世論。

先にヨーロッパには市民革命の精神があり、日本の市民にはそれが無いのではないかと言いました。私はこれが市民だけのせいではないと思うのです。ヨーロッパで市民革命がなされたのは、市民だけの力ではなかったはずです。哲学者や科学者などの知識人達がその先導をした事が大きかったと思います。だからこそ太田知事には多数の小さなものの為に、一握りの大きなものに対して声をあげていただきたいのです。絶対がはびこる日本でいいのでしょうか。それを平気で受け入れてしまう日本でいいのでしょうか。誰がいつになれば声を上げるのでしょう。市民が読売の不買運動でもすれば、始まる事なのでしょうか?日本人には先導者達はいないのでしょうか。権力者の為なら死も潔しとして、忠誠を誓うサムライが日本人なのでしょうか。

先にヨーロッパのサッカー組織UEFAが、よいユーロ圏の形成も手伝っていると書きました。野球はよい日本、よい地域、あるいは韓国や台湾、中国などを交えたよいアジア圏の形成を手伝いうるものなのです。それを阻害しているのはプロ野球機構に他なりません。プロ野球機構の規約がどれほど公平性を欠き、一部のオーナーの利益を守り、プロ野球の社会的利益を制限しているものだという事は、独立したスポーツジャーナリストのコラムを読めば、みんな同じ事を指摘しています。しかもその規約はプロ野球機構自身が公にしようとしないものです(選手会などが公にしていますが)。昨日も古田選手会長がオーナー達と話しあう場が欲しいと言えば、それを無礼だと、ぶをわきまえろと言う渡辺オーナーに対して、テレビ局からも新聞社からも著名人からも何の声も聞こえてきません。おそらくインターネットの掲示板を見に行けば、多くの無力な怒りあるいは嘲笑を目にするでしょう。スポーツジャーナリストは異を唱えるかもしれません。ただしスポーツジャーナリストはスポーツファンの著名人でしかないのです。

私は、憤りでこの手紙を書いていると言うよりは、日本人への憂いで書いております。今日は参議院選挙でありますが、どの政党が勝つかとか、国民の政党への支持や不支持よりも、投票率を気にする者です。合併するかしないかとか、一部の球団オーナーが絶対主義者とか言うよりも、絶対に服従し、絶対になんとも思わない日本人に対して気に病んでいる者です。太田知事にメールする気持ちがおわかりになっていただけますでしょうか。府民の私にとっては、身近なすがるべき影響力のある方が他に見当たらないのです。読んでいただけたとしても決してお返事を期待するものではありません。既に私は自分の無力を絶望するほどではありません。ただ乱文を見直す冷静さを持ち合わせておりません。無礼で、ぶをわきまえろと言われても仕方が無いと思いつつ、長文のメールをする事をお許しください。
敬具
7月11日
吹田市在住
江田

追伸
2,3日前、知人がきりもりする飲み屋に行くと、顔見知りでたまにおごってもらえる不動産会社の社長と会い、プロ野球談義になりました。私は選手会の団体行動をけん制する近鉄球団の発言は、まともな大人が公でするものじゃないと言いますと、社長は「今時どこでも簡単に首切っている」と言いました。私はつい熱くなって「今だからこそ、説明が必要だ。。。。云々」と青臭いことを言って、おごってくれる人を失ってしまいました。社長は「共産主義者か」と言い、私はいつの時代の人だろうと絶望してごちゃごちゃ何かを言っていました(何を言ったか覚えていない)。ただ店のカウンターで口論をしてしまい、知人に悪い事したなあと反省しています。そして私の無力感が形成され、まるで子供が、けんかに負けて、母親に鳴きつくような手紙を書いたのかもしれません。もしかしたら、私と社長の代理論争を誰かにやって欲しいという深層心理が、書くきっかけになったのかもしれないと思うと、誠に失礼です。だけどせっかく書いたので、送信ボタンを押します。えい。
届け。

Posted at 2004年07月11日 17:33

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