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アンチヒューマニズム一考

ヒューマニズム一考 のつづきです。

「満たされた時代の価値観 」で弊紙はアンチヒューマニズムを標榜してしまったが、大量破壊兵器や環境破壊や人間中心主義に対する反省の意味もあれば、現在では非人道的という意味もあるんだろう。共通のキーワードである「理性」や「道徳」という人間だけが持つ人間による人間のための概念に反するものがアンチヒューマニズムだと思う。

１８世紀に生物の分類体系が作られるときに、人類はホモサピエンス（理性の人）と名付けられた。２０世紀になるまで人間以外のものに対して、「おい！おめえら、理性もってっか？」と偉そうにしてた。

おそらく最初に疑問を投げかけたのは１９２０年ごろ芥川竜之介が「理性が、教えてくれた事は理性の無力である」と言ったあたりじゃないだろうか？と思いながらアンチヒューマニズムで検索してみると、談 editer's note[before]が見つかる。澁澤龍彦は次のように言っているらしい。

二十世紀の快楽主義はヒューマニズムではなく、アンチ・ヒューマニズムを志向すべきだと澁澤は結論するのである。

澁澤龍彦といえば、サドの研究者として有名で、４０年程前サドを訳して「エロ過ぎ」という事で１０年裁判した人だ。快楽を追及する事を悪とし、身を粉にして働くことを良しとするような、倫理観、ヒューマニズムは人間本来の姿でないということらしい。

サドは奇しくも理性の時代に、道徳を反自然として、悪徳とよばれる行為を行い、人生の多くを監獄や精神病に監禁された、サディズムの語源にもなった１８世紀の侯爵である。彼にとって人間の本性は利己的で、美徳や道徳こそ自然の原理の破壊なのである。

このような思想は紀元前４世紀のキュニコス学派（Ｃｙｎｉｃｓ）にも通じると感じる。ディオゲネスが創設したと言われ、彼のあだ名がキュニコス（ギリシャ語で犬のようなの意）で、犬儒学派とも言われる。後にゼノンによってストア学派（Ｓｔｏｉｃｉｓｍ）に引き継がれ、Ｃｙｎｉｃｓはシニカルの語源になり、Ｓｔｏｉｃｉｓｍはストイックの語源となる。

キュニコス学派はその名の通り「犬のような」生活を理想とし、自然に反するものとして人為的な文明が悪を生むとする。そこで富や贅沢を排除し、禁欲的な態度を取った。

サドが快楽主義に走り、ディオゲネスが禁欲に走ったのは正反対であるが、人間的なものが不自然であるという出発点は同じである。

これと対照的であり、象徴的でもあると思える論争が、孟子の性善説と荀子の性悪説だ。「人間性というのは本来、善だけどだんだん悪くなってしまうので、ちゃんとせーよ」というのと、「人間性は本来、悪だから、ちゃんとせーよ」と出発点は違うが、「ちゃんとせー」と言うのは同じである。

ハイデッガーは「すべての『アンチ』は、それが立ち向かう対象、批判の対象の範疇の中に取り込まれてしまわないか」ということを発言した。そんな難しい事はよく分からないが、これまで見てきたようにヒューマニズムというものがあいまいな以上、アンチヒューマニズムもあいまいなものであるのは間違いない。だが、そんなややこしい事を言おうとしたのではない。鳥のアンチテーゼのヒューマンなのであって、ヒューマニズムだろうが、アンチヒューマニズムだろうが鳥好きにとっては、鳥じゃないということだ。

キュニコス学派が「犬のような」生活を目指すなんて友達にはなりたくないタイプだが、なかなか面白い事を言うもんだ。僕も鳥のような生活を目指したいところだが、僕は飛べねえんだよなあ。「鳥のような」を意味するギリシャ語知らないし、かっこいい呼び名はないものかと「トリズム」で検索すれば、鳥肌実氏が既に宣言していた。

Posted at 2004年08月26日 00:16

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