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全国各地の孤独に悩む皆さん。ご安心下さい。 注：鬱の方は読む前に効鬱剤を服用してください。

孤独のメッセージ

ヒューマニズム一考 で紹介した小林秀雄は江戸時代に脱藩してまで塾を作ったり、学問をもとめて人との交流を深めたりといった、「志」あるいは「人生に対するヴィジョン」を持つ熱意に小林はヒューマニズムを見ており、サルトルのいうヒューマニズムにも似たようなものを感じたのだが、そこで僕が注目したのは、サルトルと江戸時代に塾を開いた人の共通点である。中江藤樹の弟子の蕃山の言葉。考えるヒント２より

天地の間に、己れ一人生きてあると思ふべし。

サルトル「実存主義とは何か」より

人間は孤独である。なぜなら、人間はすがりつくべき可能性を自分の中にも自分の外にも見出し得ないからである。人間はまず逃げ口上をみつけることができない。もし果たして実存が本質に先立つものとすれば、ある与えられ固定された人間性を頼りに説明することは決してできないだろう。いいかえれば、決定論は存在しない。人間は自由である。人間は自由そのものである。もし一方において神が存在しないとすれば、我々は自分の行いを正当化する価値や命令を眼前に見出すことはできない。 こうして我々は、我々の背後にもまた前方にも、明白な価値の領域に、正当化のための理由も逃げ口上も持ってはいないのである。我々は逃げ口上もなく孤独である。このことを私は、人間は自由の刑に処せられていると表現したい。

僕は確信した。人間は孤独な動物である。いや他の動物と同じように人間は孤独である。社会、コミュニティーなどといったつながりなど、しょせん希薄で、歴史や未来などといった人間賛美や人間懐疑も、娯楽に過ぎない。

「お前は、希薄な人間関係しかない寂しい人間だね」と言われそうだが、正解かもしれないが、逆に濃密な人間関係が何をもたらすんでしょう。コミュニティーからは応援や労力やお金などを受取り､逆に相応のものをコミュニティーに提供する。それは時に「決して一人では生きていけない。」という言葉で表現される。「高慢になるな。感謝の気持ちを忘れるな」という意味の青少年向けのレトリックなら、機能しているかもしれない。僕はそんなものは警察がスピード違反の取締りをやっていたら、対向車にパッシングで知らせてやる程度のものだと思う。

「お前は薄情だ。無償の愛というものを知らないのか。」と言われそうだが、そもそも有償の愛があるなら売ってるところ教えてください。そりゃ愛したり愛されたりしたら、孤独も癒えるだろう。老人ホームに行ってばあさんの話を聞くと、遠方に住む立派な息子や娘、孫の話を嬉しそうに語る。（じいさんの場合、自分が昔いかに立派だったかを長々と話す事が多いので、僕は上の空で他の事を考えている。）彼女は息子らを愛することで、嬉しい気持ちも湧くのだろう。芥川賞を受賞した「介護入門」というのを呼んでみたが、介護が愛と呼べるかは別問題だが、ある意味で濃密な人間関係だとしても、介護する側もされる側にも僕は孤独を感じるのだ。

「お前の周りには、辛気臭い老人しかいないのか？」と言われそうだが、それじゃあ愛するのが老人だから孤独なのか？愛されるのが老人だから孤独なのか？もうじき死ぬから愛しても、愛されても無駄なのか？そのくせ直ぐには死なない人を愛したり、愛されることに孤独を感じないのなら、何か見返りでも期待してるのか？

ハイデッガーは日常的に行なわれる人との付き合いや気遣い、好奇心とか仕事も非本来的という。人間の頽落ともいう。作家筒井康孝の解釈によれば

（人は）非本来的な生き方をしていると思ってない。自分は有意義な生活を送っていると思っている。本人は生きがいを感じているが、この人は本来的にやっているのか非本来的にやっているのか分からなくなる。これを曖昧性という。これは頽落であり、頽落していることによって安らぎを得ている。

ポリスの名盤「Reggatta De Blanc」の中に「孤独のメッセージ」という曲がある（原題はMessage in a bottle）。無人島に漂流して、孤独の絶望に落っこちそうで、ＳＯＳのメッセージをビンに詰めて海に投げる。1年後、１０００億個の孤独のメッセージが詰まったビンが岸辺に打ち上げられていて、「どうやら一人ぼっちなのは僕一人ぼっちじゃないようだ。」というオチだ。以上自問自答。

孤独の皆さん。「助けて」とSOSを出しても返事は「俺の方こそ助けてよ」ってなもんだ。これは絶望じゃない。一人ぼっちじゃないという意味にもなる。

Posted at 2004年09月01日 00:12