鳥新聞

0.鳥新聞トップ/ ハトの散歩トップ

<< 前の記事 | メイン | 次の記事 >>

テロリストとサムライ

ハリウッド映画「ラストサムライ」を見て「日本人でよかった」なんてコメントしてる人がいたが、アナーキーな僕にとってサムライなんぞ役人にこびへつらう恐怖政治の実働部隊だ。現在テロリストと呼ばれる連中のほうがよっぽど美しい。文明開化で野蛮のレッテルをはられた武士であるが、士族の反乱や自由民権運動のほとぼりが冷め、西洋と対峙する明治後期になったとき、日本人の精神基盤として武士道を引っ張り出してきた。それがどんなものか読んでいないのでわからないが、あくまでもそれは歴史書ではなく精神論であり、おおよその精神論は美化されている。そもそも侍、武士というものは武力によって権力を持ったり、権力につかえるものである。その中で生まれた武士道はどんな組織でもある規範のようなもので、大雑把に言えば武士を主人に服従させるための名分である。場合によっては主君の為に死ぬことも潔しとしている。何年かに一度スキャンダルの追求を受けている政治家や政治家の秘書が自殺に追い込まれているが、自殺に見せかけた殺人でなければ、まさしくサムライ精神だ。世話になった主人のために死を持って秘密を守ったと見える。主人にしてみれば頼もしい限りだ。

テロリストって誰よ？

2年前の流行語大賞は「テロリスト」だと思っていたが、「テロリスト」という言葉はテレビなどの力を借りて圧倒的に受け入れられない連中を指すものとなった。アメリカとアメリカが悪物扱いしている国とのやり取りを見ていて、これは小学校で「やーいテロリスト」「おまえの方がテロリストだから正義のために攻撃したんだ」などというやり取りが流行するんじゃないかと予感したものだ。最近でもよくテロリストと戦うとか、テロに屈しないなんて曖昧なことを言う人がいるが、誰がテロリストやねんってかんじ。どこかにハーイ私がテロリストでーす。と名乗る人がいるのか。「テロリスト」という言葉で片付ける前に子供のけんかのように一方的で卑怯な悪口になっていないか考えてから発言して欲しい。たとえばイスラエルで自爆を行うパレスチナ人は、自分たちの不利益を強いるイスラエル政府とそれを支持するイスラエル人への抗議であるのは周知の事実で、血の流れた東チモールの独立とか、フランス革命、幕末の討幕運動とたいして変わらないと思うが、誰も彼らのことをテロリストと呼んでいない。ただ「テロリスト」という権力者にとって都合のいい悪口が発明されたために、最近の反権力者をそう呼んでいるに過ぎない。チェチェンもちょっと前は独立運動だったのに、ロシアはここぞとばかりにテロリスト呼ばわりをはじめている。チェチェンの独立運動家とか、反イスラエルのパレスチナ人とか犯人が特定できればハマスのメンバーとか呼べばいいのだ。イラクではまだ混沌としているが、もし声明や証拠があればイスラム原理主義者とかスンニ派勢力とか、むしろ戦争終結の条約が法的にかわされていない今はイラク兵によるゲリラと呼べばいいのだ。誰がテロリストやねん。

テロリストって呼ばれている人って本当にテロリスト？

その昔フランスやロシアで権力の集中を否定するアナーキズムという思想があったが、権力者は自分の地位を脅かすもんだから、「アナーキーズム」という言葉を見事に危険で悪い思想だと民衆に植え付けることに成功した。資本主義国家で共産主義を危険思想と呼んだのも同じやりくちだ。もちろんアナーキズムやコミュニズムの信奉者の中には過激で危険人物と呼ばれるにふさわしい方もいらっしゃったでしょう。しかし不当に逮捕され処刑された人も山ほどいたはずだ。それでもアナーキズムやコミュニズムを信条としている人に、アナーキストだとかコミュニストと呼ぶ分には何も問題はない。テロリストの場合は、誰がテロリストと決めるんだ。地下鉄サリン事件は紛れもなくテロリストだ。それは一方的なものでなくて、多くの信者による証言や司法判断によってそう呼べる（９１１の実行犯もテロリストと呼んでいいが、ウサマビンラディンもそう呼べるかは僕は知らない）。しかし現在テロリストと呼ばれている人の中に、ただアナーキズムやコミュニズムを勉強している学生や学者に不当な逮捕や処刑を執行したのと同じように、不当に罪状を貼り付けられている人はいないだろうか。法治国家の常識では犯罪の容疑者は有罪判決が出るまでは無罪で、犯罪者と呼べない。そんなもんだからテロリストという言葉を借りているようだが僕に言わせると現在の「テロリスト」という言葉は「犯罪者」という言葉以上に犯罪的なニュアンスがあり、いまテロリストと呼ばれている人たちの多くは有罪判決前に裁判官でもない人に死刑宣告されているようなものだと思う。しかも中には死刑執行人でもない者にそれを執行されている人もいるだろう。

同じ人殺しならサムライよりテロリストと呼ばれている人の方が比較的美しい

私はテロ行為や暴力を肯定するつもりは一切ない。サムライもテロリストも暴力を使って敵を攻撃する点は同じだ。サムライよりテロリストと呼ばれている人の方が美しいと冒頭で言ったのはあくまで比較論だ。テロリストと侍の違いは何かというと、侍が権力者の為に忠誠を働いているのに対して、後者は自分の信条や心情のために戦っている事だ。盲目的に権力者に従う侍よりテロリストと呼ばれている人の方が美しいと思っても不思議じゃないよね。僕の美的感覚なんだから。こんなことがいえるのも、生まれてこのかた平和な国に住んでいるからだということは分っている。戦国の世にいれば、兵士が忠誠を働いてくれないと国が成り立たない。スパイ行為や寝返り裏切りが卑劣な行為とされるのはどの国でも同じだが、その点で武士道はサムライたちに美点を与えたかもしれない。もちろん立派でかっこいい侍もいただろう。たとえすべてのサムライが主人に忠誠を持っていたとしても、何の罪もなき人を切り、姦し、家に火を放つサムライもいたのだ。それはテロリストと呼ばれている人も同じだ。付け加えるなら和平交渉をことごとく妨害するハマスにもパレスチナ民衆の支持をえるため暴力とは無縁の社会的活動を担当している人もいる。もうひとつ両者の違うところといえば、生きた時代とその時代にそった暴力の強さだ。時代に伴って技術が進歩すれば、敵対する双方の力も強くなる。テロリストと呼ばれている人の武器はサムライのそれより何万倍の殺傷能力を持っているのは当然だ。だって敵の武器はそれ以上に強力なんだから。相対的に見ればサムライの能力もテロリストと呼ばれている人のそれに変わりはない。

テロリストという言葉を使うひとは胡散臭い

「だからといってテロリストは肯定できない。彼らはその名の通り恐怖しか与えていない」という非難もあるだろう。そのとおりだ。彼らは恐怖しか与えられないところに悲劇がある。恐怖だけしか与えられず、彼ら自身もまた、成果をえないのだ。仮に彼らが政治的に成果を得たすれば、彼らからは「テロリスト」という汚名が取り払われて、「○○運動市民とか○○開放運動家が権利を獲得した。」と名前に変えられ、彼らはテロリストではなくなり、テロリストという呼び名はいつまでも汚名のままである。通常言葉のニュアンスは時代と共に変化するものである。テロリズムとかテロルという言葉は漢字で書けば「粛清」で、元来は恐怖政治とくに権力を持つ者が利害の対立する者を抹殺した場合にテロと呼ばれていたし、サムライも元は偉い人に仕えるものという意味から武士を指すようになり、今では立派なひと勇敢なひとというニュアンスもあるし、果ては日本男児総サムライという人もいるかもしれない。アナーキストも後にその言葉の定義も多少変化し大衆に受けいられた。以前「おたく」という言葉が流行った当初、根暗な奴とか女性の肌があらわになった人形を大人になっても集めてるエロい変態というイメージがあったが、しばらくすると、何かに秀でたスペシャリストとかオーソリティーのようなニュアンスに変化した。現在「テロリスト」という言葉は「戦争」とかと違って国際的、統一的な定義という物はない(Terrorism From Wikipedia参照。日本語版のWikipediaを引くと主なテロ集団に堂々とアメリカと書いてあって笑った。)のに政治家がこの言葉を使うのは、「危険思想」という言葉を使った時と同じようなきな臭い匂いがする。権力者にとって邪魔な存在を指す都合のいい曖昧な言葉に思えてしょうがない。だから少なくとも今はめったなことでは誰かをテロリストと断定して呼びたくない。オタクやアナーキストが市民権を得たように、テロリストが市民権を得るとき が来るまで。

そろそろサムライは卒業せよ。サムライスピリットを持ちたければ個人で

私も日本人として勧善懲悪のちゃんばら劇を何度か見たことがあり、実にかっこいい、立派な侍もいたんだろうと思っている。西部劇にしろ、もし武士や保安官が見たら、かっこよくないとこんな危ない仕事割に合わないぜとか言って、誰も危険な仕事をやらなくなる。時々警察や消防が協力して「密着24時間」なんて番組が放送されるのも、同じ原理だ。おそらく江戸時代の演芸にも同じような事があっただろう。僕は百姓の子孫だったとしても、そんな教育によってちっぽけなサムライ的な精神は僕なりに持っているつもりだ。僕が大きな会社のサラリーマンをやっていたとき、最初の２，３年は成果をあげたわけでなく、会社に養ってもらっていたがその恩は決して忘れず、忠誠心を持って会社のために身を粉にした。それは決して苦痛でもなく、自分のためでもあり、充実していた。その後ある程度の成果を得て、会社を辞めたわけだが、十分に恩は返したはずだ。しかし中にはろくに成果もあげず、そのくせ交際費は確保して、会社にとってメリットのない接待でうまいもん食って、乗らずにすむタクシーを経費で落としぶくぶく太ってるやつも官民に関わらずあらゆる組織にうようよいることだろう。個人でも国に貢献することなく国の制度をこずるく利用して、もらって当然という大きな顔で給付金をもらってる人も山ほどいるだろう。今の日本にとって武士みたいな存在である警察すら国の金を横領している。もしそんな奴がサムライの映画見て日本人でよかったって言ってたら、戦場に行って来いと言いたくなる。そのセリフを世界中の人が聞いたら何と言うだろうか。せめて「日本人を誇りに思う」くらいにしておけばよかった。民族意識や愛国心は大事であるが、選民思想に陥れば目も当てられない。そろそろ日本人とサムライを結びつける発想は終わった方がいいと思う。ドイツ人に対して今は誰もゲルマン民族の大移動大変だったねとは言わない。富国強兵の明治時代の日本のことを成長中の青年が肩肘張っているように見えないだろうか。韓国は根性があるとか、中国は歴史があるとかいうのと似た、背伸びするような自画自賛。得体の知れない劣等感を勝手に感じておいてムキになって、それを無視するような視野の狭さ。そろそろサムライとは無縁の日本に誇りを持ってもいい。むしろどんな日本のイメージもほうっておいて自分個人の強さをもっと見つめるべきかもしれない。多分アメリカ人だっていまどき俺は開拓者精神持ってるぜ、なんて間抜けな事いわないだろう。逆に外国人が武士道に傾倒して立派なサムライスピリットもっても不思議じゃないし。

後記

まとまりなく長くなってしまったが「ラストサムライ」やアメリカの映画を批評をするつもりは全くない。第一みてないし。アメリカには単純な勧善懲悪の映画だけあるわけじゃないし、平凡なストーリーだったとしても、資本力、技術力、美的センスは平凡なものではなく、政治的な外交戦略や国内政策に利用されることはあっても、監督やスタッフ達にはそれぞれに良心と主義信条を持ち、それを外圧で捻じ曲げられることなく製作していると思う。世界最大の経済力と軍事力を持つ国が世界最大の映画製作のパワーを持っていることは当然かもしれないが、怖いといえば怖い。「リンチ救出大作戦」は失敗に終わったけど。

参考
1884 自由党解党
1894〜5 日清戦争
1899 新渡戸稲造「武士道」
1904〜5 日露戦争
1912年7月30日 - 1926年12月25日 大正

Posted at 2004年01月15日 23:13