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セクシーフラメンコダンサー

人間だれでもささやかな悩みがある。悩みがあるから人間らしいのである。僕はそんな悩める姿に愛着すら覚える。「ねえ、何悩んでんの？恋煩い？ねえ、便秘？ねえねえ！」と人が悩んでいたらうれしいわけでない。悩み事に相談に乗りたいタイプでもない。どうも悩める人にとって僕は相談したいタイプでもないようだ。

よく分からないのだが、悩める姿がただ美しいと感じるのだ。好きな絵画や音楽に触れて感じるようなものかもしれない。作者の才能に対するものではなくて、そのものが持つ美しさを感じる瞬間。セクシーと呼んでもいいのかもしれない。正確にはセクシーって、エッチ的魅力という意味かもしれないが、僕はなんて言うかなあ、野性的というか、人間の根源的というか、まあそんな感じにとらえている。だって、僕は男性にエッチ的魅力を感じた事は無いが、友達に｢お前！セクシーな奴め。｣と言う事がある。性的魅力と訳さずに生的魅力と呼んでもいい。ちなみに鳥が飛んだり、ペンギンが泳いだりする姿は、僕にとってセクシーの極みだ。

悩む姿が好きだからといって、ＳＭのような身体的に苦しむ姿が好きなわけもない。あまり深刻な悩みの場合もセクシーを感じないかもしれないが、悩みの内容はどうでも良い。ささやかな悩みでよい。身長が低い事や体重を気にしている事なんかも、かわいいものだ。僕は、おっぱいは２個あればよくて、大小は全々気にしないのだが、女性が小さい事や大きすぎる事をちょっぴり気にしている事がかわいかったりする。目の前にケーキがあって、すんごく食べたいくせに、「あー、これ食べたら太っちゃう」なんて気にしながら、断腸の思いで半分あげたり、そのつもりがつい全部食べてしまったり。有無を言わず平らげてしまうとかわいげがないというつもりは無いが、悩むのがセクシーと感じるのだ。

数人で遊園地に行くとき車２台に分乗して高速に乗った。僕は後続車の助手席に乗り、後ろに座った女の子と話をしていると、ひとりの表情が険しく見える。僕の話もそっちのけで窓の外を見つめるばかりである。一切恋愛感情を持っていなかったが、少し気になりつつ、運転手と話したりしていると、か細い声で脈絡なく「休憩しよう」という。ははーん。おしっこか。と思い振り返ると、なんとも思わなかった彼女がすごくセクシーに見えたのだ。変態なのか僕って？「その顔すごくいいねえ。次のサービスエリアはまだまだだよ。えっどうするよ。」などというわけじゃない。彼女を見ると、なんだか共感して運転手に｢アクセル全開にしやがれ！｣と叫ぶ｡おしっこしたいわけじゃないんだけど、一刻も早くトイレに行きたいような、ジョーズのテーマソングが流れ、恐怖が刻一刻と近づいてくる時のような、緊張感。爆破寸前のビルから、防火シャッターがまさに閉まろうとする刹那、すべりこんで逃げ出すような、ハラハラ・ドキドキ。僕は彼女の膀胱に心の中で声援を送る。母親が出兵する息子のためにひそかにお百度参りするように、心から無事を祈る。

感動巨編のフィナーレは、トイレから出てきた彼女のすがすがしい表情。僕の心は拍手喝采。僕は人生を垣間見たのであった。そして僕はグラナダのフラメンコダンサーを想起するのである。険しく、緊張感のある表情で舞台に登場するフラメンコダンサー。メランコリックで時に情熱的なギターをバックに､メランコリックで時に情熱的に踊る。フィナーレの表情には、ほとばしる汗とすがすがしい表情が輝いている。僕はすっかり口に運ぶのを忘れていた甘いサングリアを飲み干す。

１曲お送りします。「カルメン'９９ 」

Posted at 2004年09月13日 01:14