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匿名の快感におぼれる

匿名を許す社会の寛容さを泥棒している奴がいる。今流行りの内部告発で、仕事を失う人がいるから、匿名が許される。おもしろい投稿をするセンスのある視聴者がいるから匿名希望が許される。面白くなければ、テレビやラジオの投稿番組のディレクターが排除してくれる。

匿名は快感である。とある田舎出身の長男は親を田舎に残し東京で生活する理由を「都会の匿名性と風俗」だと答える。

僕も田舎に帰ると恐怖を感じることがある。小さな町では当たり前だが、僕は知らないのに僕の事を知っている人が多いというのは居心地が悪い。母を訪ねてきたばあさんは、久しぶりに帰省した僕をみて、大きくなったねーと言う。自分の名前も名乗らずに。これを恐怖と呼ばずになんと呼ぶ。そのばあさんが匿名の快感をあじわっていたわけではないだろうが、僕にしてみれば気味が悪い(地元での過去に引け目があるわけではないので誤解なく)。べらべらしゃべってるけど、誰だあんた。

イラク拉致被害者家族への匿名バッシングはもちろんのこと、成田好三氏が「匿名性に隠れる日本の新聞記者」で指摘するように、新聞雑誌の匿名記事、質問者が名前を名乗らない記者会見などにも気味の悪さを感じないだろうか?

僕は何かの商品についてメーカーのお客様相談のコールセンターなどに電話するときでも、まず名前を名乗る。別に電話番号や住所を言うわけではない。雑多な人から電話を受ける経験を少ししたことがあるが、名前を名乗らない人間があまりに多いのでそれだけでムカムカするからだ。それにはいくつか原因が考えられる。

  1. 名乗る程の者ではないという、下手な謙遜

  2. 名前を名乗ると自分に災難が降りかかるのではないかという社会性の無さ

  3. 指名手配犯か何か

  4. ただ単に礼儀を知らない

僕はコールセンターの方、特に、女性と話をすると、是非一度会ってお話を。と常々思う。いくつか理由があるが、第2に失礼な電話、高慢な態度、口の悪い電話でムカつかないかと聞きたい(第1は割愛しました)。彼女達は派遣社員やアウトソーシングの電話応対のプロで、下手に出ることに慣れっこでいるのかもしれないが、先日僕の応対をしてくれたNECカスタマーセンターの方は、きっと傷つきやすいお嬢さんだ。そんな彼女の感情や精神の安定が職業病に侵されないことを祈る。

話がそれるが、メーカーが消費者を神様だと思うのは勝手だが、消費者が自分のことを神様だと思うのはどうかと思う。しかも神様と奴隷制度のマスターと勘違いしている人もいる。

まずメーカーが消費者を神と言うのは、社会人経験のない新人に言う方便である。消費者に言ってるんじゃない。だいたい神道が日本人の根底思想に残ってればいいが、今時そんな形而上学的なこと言ったってしょうがないような気もする。普通に社会人経験をつめば、自然と礼儀作法もできるようになるし、実績をあげていけば、消費者やマーケティングに気を配るのも常識になる。もし中堅社員の方で「お客様は神様」と上司に言われたら、馬鹿にされてると思ってよい。

消費者の方も神でもなければ、マスターでもない。金を払って商品を購入したかもしれないが、その対価として、商品とサービスを受取っている対等の関係でいいはずだ。もちろんクレームや不満足な対応に文句をいうのは当然で、けんか腰で望んでも良い。ただ命令などは出来ないのだ。ケンカを売るというのは社会的な行為に挑むということを肝に銘じて欲しい。ささいなケンカのエピソードを紹介する。

24〜5才の頃に駅のホームで電車を待ちながら、僕は缶コーヒーを飲んでいた。まだ半分くらい残っている時に電車がきて、コーヒーを持ったまま乗り込み、つり革をつかみ一気に飲み干し空き缶をポケットに入れた。少しして突然むせてしまい、慌てて口を抑えたものの「やべー、つばが飛んだかなー」と緊張しながら、目の前の座席に座っている人を恐る恐るみながら静寂が何秒か続いた。飛んでなさそうだなと安心し、有楽町−新橋のごく短い距離で電車が減速し始める頃、突然前に座っていた同じくらいの歳にみえる男が立ち上がり、胸倉をつかんで、その男よりはるかにきゃしゃな僕は簡単に戸口まで押された。男は真っ白なコートの一部分を指差して、「コーヒーの粒がついたじゃねーか」と怒鳴る。1滴だ。普通の言葉使いなら、僕は2000円くらいで和解をお願いしたかもしれないが、新橋でドアが開き電車から下ろされ、どうしてくれるんだみたいな事を言われて僕は暇だったので「そんな汚れ、普通に生活してりゃあ、つくやろ。」と言ってしまった。
男はいっそうブチ切れて、なんだかんだ言いながら改札口まで引っ張っていった。味方が欲しかったのか、迷惑にも駅員に僕が悪いんだと同意を求める。そして僕の名前と住所などを聞くので、「教えるので、あなたのも教えてください」と言うと、「もういい」と改札を出て行った。多分スーツを着ていたので新橋で用事があったのだろう。僕はホッとしたのかだんだんムカついてきて、なにか捨てゼリフを言いたかったが、なんせケンカなんて子供の頃からほとんどしたことが無いので、いい言葉が出てこない。一人暮らしの僕にはピンとこなかったが、男は興奮した言葉も東京弁だったので、実家暮らしで、住所が言いたくなかったのかもしれない。

今思えば、ケンカ売っといて、買われたら、「やっぱり売るのやめにします。」みたいな感じ。なんじゃそりゃ(でもコーヒー飛ばしてごめんね)。ケンカは衝動で始まるかもしれないが、本当のケンカはビジネスと同じで名刺交換から始まるのではないだろうか。そういえば日本の時代劇でも闇討ちじゃなければケンカの最初にキッチリ名乗りあってる。「お控えなすって、拙者は・・・」てな具合に。これはケンカも社会的なコミュニケーションだからだ。

匿名は快感だ。休暇なんかに一人旅するひとなら分るだろう?誰も自分のことを知らない。干渉してこない。社会生活から逃れた休息。しかしその快感に溺れてはいけない。外に出たら7人の敵がいるという。コンピュータ相手の仕事をしている人も、インターネットにつながっていれば、そこは社会の入り口である。

Posted at 2004年06月13日 22:54


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